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2008年1月 4日 (金)

飛んだノコギリの初速は時速何キロだったか

 もうずいぶんと前のことになるが、07年11月、松山市で空からノコギリの破片が降ってきたという事故があった。当初、どこから来たのかわからなかったその破片は、しばらくして落下地点の鉄工所から500メートル離れたところにある製材所から飛んできたものだということが明らかになった。
 ノコギリが高速運転中に破損し、その破片がものすごい勢いではねとび、製材所の屋根を破って空に打ち出された。そして500メートル離れた鉄工所まで飛んでいき、さらに、その鉄工所の屋根を突き破り、落ちてきたのである。
 さて、このとき、「高速運転」だったというノコギリの運動の速さは、最低でどのくらいだったと考えられるだろうか。
 何かを遠くに投げるとき、空気抵抗や風の影響を無視すれば、45度の角度で射出した時にいちばん遠くまで飛ぶ。このノコギリの破片も45度の角度で飛び出し、空気抵抗の影響を受けずに放物線を描いて500メートル先まで達したと考えよう。
 詳しい計算は、写真に示すが、射出角が45度のとき、射出される物体の初速を秒速 メートル、飛距離を メートル、重力加速度を とすると、それらの関係は以下のように表される。

  

=√( gx ) 、 ^2/

 ここでは、重力加速度を10 m/s^2 として考え、飛距離 に500メートルを代入すると、初速は秒速70.7メートル、すなわち時速に直すと254.5キロである。ちなみに滞空時間は10秒間、最高到達点は125メートルという計算になる。
 意外に感じるかもしれない。もっと速くないと、そんなに遠くまで届かない気がするのではないだろうか。
 ボールの遠投のときの実感から類推してみれば納得できるはずだ。野球の公式ボールでの遠投の場合、ちょっと野球の心得がある人でも、なかなか100メートル以上は投げられない。100メートル投げるためには、計算式から初速は時速113キロ以上でなければならないことがわかる。人類最速のピッチャーの球速が時速160キロくらい、秒速にして44.4メートルだとすれば、上記の式に当てはめると遠投の飛距離はほぼ200メートルになる。100メートル遠投で113キロ、200メートル遠投で160キロ。つまり、飛距離を倍にするために、初速は倍にする必要はないのだ。初速の2乗に比例して飛距離は伸びていく。
 いずれにしろ、ノコギリを時速250キロ以上のスピードで動かすなんて、すごいというか、恐ろしいこととお考えになる方は多いだろう。普段のわれわれの生活のなかに、そんな高速に動くものなんて、そう存在するものじゃないから…、と思うかもしれない。しかし、それもそうではないのだ。現代に生きるわれわれは、物理的に高速に運動するものを日々使用しているのである。たとえば、ハードディスクだ。3.5インチハードディスクは最近は毎分7200回転のものが普通である。3.5インチHDDの直径はセンチに直すとほぼ8.9センチ。これが毎分7200回転しているとすれば、その外縁部のスピードは、時速117キロメートルに相当するのである。
 まだこんなもので驚いてはいけない。最近のCD-ROMドライブは最大で54倍速というものまである。この54倍速CDが回るとき、外縁部のスピードはどのくらいになるのか。CDの規格によれば、通常速での読み取りのときには、読み取っている部分が秒速1.2~1.4メートルで動くよう回転が調節されるという。 つまり、内側を読み取るときには速く回転し、外側を読み取るときは遅く回転することになる。控えめな見積もりで、外縁部近くを読み取るときにのみ、最大読み取り速度の54倍速が実現されるのだと考えると、そのときの外縁部の速度は1.4×54で、秒速76メートルほど、時速に直すと272キロである。さっきのノコギリより、速い! さらに、もし、中心に近い部分を読み取るときにも54倍速が実現するのだとすれば(たぶんありえないが)、ざっと計算して、データが書き込まれている最も内側の部分の半径と、CDの外縁の半径は2.5倍くらい違う(内側部分が半径約2.4センチ、いちばん外側は半径6センチ)から、そのときの外縁部の速度はなんと時速680キロということになる。高速なCDドライブが恐ろしい音を立てていることがあるが、あの音の恐ろしい感じには、物理的な現実が伴っていたのである。
 もし680キロで回転するCDが割れて45度の角度で射出され、ありえないことではあるが、何の空気抵抗も受けずに飛んでいったとすれば、その飛距離はほぼ3.6キロになる。すさまじい。
 しかし、実際、CDが回転中に割れることなんてあるのだろうか。回転時の遠心力を考えてみよう。外縁部が272キロのスピードになるという控えめな見積もりの場合でも、そのときにかかる遠心力は、なんと重力の9500倍になる。これは、1グラムのものが9.5キロの重さに相当する力で引っ張られるということだ。680キロ出ているのなら、重力の6万倍近い遠心力がかかる。これは同様に、1グラムのものが60キロの重さに相当する力で引っ張られるということ。たぶん、このあたりからもうちょっといったら、CDは割れるだろう。CDの読み取り速度に限界があるのは、光デバイスの性能のためでも、コンピュータの処理速度のためでもなく、CDが作られている材料の引っ張り強度に限界があるためなのかもしれない。

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