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2009年12月

2009年12月27日 (日)

バイク盗難保険に入るべきか?

 今年もバイクの盗難保険の更新の時期となり、保険会社からご案内が来た。あまり深く考えずに、更新してしまった。しかし、それで本当によかったのだろうか? 今回はその妥当性について、考えてみましょう。

 

私が加入したのはJBRという会社の「バイクよくばりあんしん倶楽部」というもので、盗難保険にバイクのロードサービス(路上で故障して動けなくなったときにレッカー移動してくれるサービス)が付いた商品である。

 その保険の概要は以下の通り。

  1. 年間の保険料(年会費)は4万円
  2. 盗難時の補償は93万円(所有車両の中古市場の相場価格が補償される)。ただし、盗難にあっても保険金は現金では支払われない。次回の車両購入の補助としてしか使えない。保険金は、バイクを購入するバイクショップに直接払い込まれる。
  3. 盗難補償のほかにパーツ盗難補償が最大20万円まで補償される。
  4. バイクのロードサービスは最大200kmまで無料
  5. メンテナンスクーポン券2000円分が加入者に送付される。

 3~5の項目は加入者にとってはおまけみたいなもので、 重要なのは1と2である、と思われる。これについて検証してみよう。

 保険料の金額が妥当なものなのかどうか、確率から考えてみる。もし、保険がフェアなもの(保険会社がまったく利益をとらない場合、ということ)であれば、保険の価格は以下の式によって決定されるはずである。

《年間保険料》=《盗難時の補償金額(保険金)》×《1年間に盗難にあう確率》

 つまり、保険料は「発生する補償金額の期待値」に等しいはずだ。今の場合、年間保険料は4万円、補償金額は93万円なので、簡単に《1年間の盗難確率》は算出できる。

《1年間に盗難にあう確率》=《年間保険料》÷《盗難時の補償金額(保険金)》

                =40000円÷930000円=4.3%

 上記の数字は、「保険がフェアなものであると仮定して、保険料率から推定した盗難確率」である。これがもし、実際の盗難確率と等しい場合、損得は生じない計算になる。そうではなく、実際の盗難確率がこの値より小さければ、長い間保険に入り続けると損が膨らんでいくことになる(保険会社は儲かる)。さて、では実際の盗難確率はどのくらいなのだろうか。

 警察庁の統計によると平成20年のオートバイ盗難の件数は80,354件である(警察白書)。かたや、平成20年時点の2輪車の登録台数は、250cc未満が1,976,829台、250cc以上が1,478,724台で合計3,455,553台である(全国軽自動車協会連合会による)。とすると、平均の盗難確率は、80,354÷3,455,553で2.3%となりそうに思える…。が、警察庁の定義によるオートバイ盗難には原付の盗難も含まれているのだ(ネット上にはこの点を誤解している記述が結構多いようだ)。

 そこで原付の登録台数も調べようとしたところ、国土交通省は原付の登録台数の集計を2006年でやめてしまっていることが判明。現在の国交省サイトの統計資料には2006年以前の数値も出ていない。総務省が課税対象となる原付の台数の統計を持っているはずだが、ネットの検索では引っ掛かってこなかった。でも、市町村単位の登録データは各自治体が公表しており、いくつか見たところでは、原付の登録台数は自動2輪の3.5倍程度らしい。つまり、全国の原付の数は1000万台ほどと考えられる。ということは、警察庁のいうところの「オートバイ」は全国で1350万台くらい、うち盗難にあうのが年間8万台程度なので、盗難の確率は0.6%ほどということになる(あくまで平均値。車種ごとに調べれば相当の凸凹があるはずだが…)。

 これは、上記で推定した「保険がフェアだった場合の推定盗難確率」の4.3%とはえらい違いである。

 実は、バイク盗難はここ数年で劇的に減少している。平成12年には現在の8万台程度よりも3倍も多い、25万台もの盗難があった。その後、バイクにイモビライザーがつけられるようになったことが大きな原因だと思われるが、劇的に盗難件数が減ったのである。

 盗難件数が非常に多かったころの年間の盗難確率は、現在の0.6%の3倍以上、2%程度だった計算になる。そのころならば「保険がフェアだった場合の推定盗難確率」=4.3%との乖離は2倍ちょっということになる。乖離が大きいほど保険会社は儲かる。保険会社も営利でやっているのだから、正当な報酬として利益をのせていると考えると、2倍ちょっとの乖離は、まあ妥当だったかもしれない。しかし、現状の盗難確率0.6%程度と推定値との乖離はあまりに大きい。なぜこのようなことがまかり通り、バイク乗りは保険料を払い続けるのだろうか(自分のことですけど)。

 バイク保険加入者は、過去の盗難の経験が忘れられず、「羹に懲りて」、保険に加入しているということだろうか。かくいう私も4年ほど前にバイクを盗まれた。その時もJBRの盗難保険に入っていたから、おかげで今のバイクを買うことができた。その経験から、あまり考えることなく盗難保険を継続したが、盗まれたバイクにはイモビライザーが付いておらず、今のバイクには付いている。このあたりのことを考えると、保険継続が妥当だったのかどうか、疑問が出てくる。

 じゃあ、JBRは儲けすぎているのか?

 JBRの決算資料を見てみると、2009年9月期のバイク会員からの売上総計は10億8100万円で売上総利益率は46.7%だそうだ(販売管理費などの費用は含まない粗利率のこと)。この粗利益率は暴利といえるほどのものなのだろうか? ちょっと参考のために、同業他社といえるかどうか微妙ではあるが、ソニー損保のデータと比較してみよう。ソニー損保のIRデータでは、全保険料に対する「正味損害率」を公表していて、2008年は55%だった。正味損害率は「1-売上総利益率」なので、ソニー損保の売上総利益率は45%ということになり、JBRの値とあまり変わらない。盗難確率の低さから考えると、JBRの粗利率は業界標準よりずっと高くていいような気もするが、そうでもないようだ。これはどういうことだろうか。

 ここで最初から考えなおして、妥当な保険料を求めてみよう。

 もし、年間盗難率が本当に0.6%だとして、補償額が93万円だった場合、フェアな保険料は、

93万円×0.006=5580円

となる。しかし、JBRも利益を上げなければならない。その粗利率が45%だとすれば、保険料は、

93万円×0.006÷(1-0.45)=10145円

となる。でもまあ粗利率の算出には再保険料(保険会社がリスク分散のために別の保険会社から保険を買う費用)や、調査費(保険金詐欺じゃないかどうか調べたりする費用)も入る。その分を乗っけるとすると、妥当な金額は15000~20000円程度だろうか。それを超えるとはちょっと考えづらい。でも実際の年会費は40000円である。となると、残りの部分はロードサービスに対して支払われていると考えるしかない。

 私は保険業界の人間ではないので、以上のことからあくまで推定するだけであるが、JBRのサービスの中核は、実のところ、上記の2の盗難保険ではなく、ロードサービスなのだと考えたほうがいいだろう。つまり、「よくばりあんしん倶楽部」という商品は、実質的には2万円弱のサービスである盗難保険と、2万円強のロードサービスのセット販売だと考えるべきじゃないだろうか。しかし、ロードサービスに年2万円以上払う価値があるかどうか、微妙なところだ。バイクの任意保険にレッカーサービスが既に付いている場合には、まったく意味はない。ロングツーリングに頻繁に出かける機会のない人も、あまりメリットがないかもしれない。

 このように考えると、自分の場合、来年は盗難保険に入るべきではないような気がしてくる。結局は「競争」がない、えらべる商品の種類があまりないということが不満の種になってくる。

 現在の日本で、バイクの盗難保険を大々的に扱っているのは、JBRだけ。独占といっていいだろう。もし、ここに競争が働いていれば、ロードサービスなしで盗難保険のみの安い商品や、イモビライザー付き車両では保険料を割り引くなどの商品を提供する会社がも出てきていいかもしれない。でも、市場が小さい(年売り上げが10億円規模)ので、新規参入もしづらい。ここが苦しいところ。

 しかし、贅沢を言ってはいけないのかもしれない。JBRが盗難保険をはじめる前には、バイクの盗難保険はもっとさらに悪条件のものしかなかった。バイク所有者がそこそこまともなバイクの盗難保険に入ることができるようになっただけでもありがたいと思うべき、とも考えられるだろう。JBRが盗難保険をはじめたのは、もっとずっと盗難確率が高い時代だったわけだし、あえてリスクをとって参入したJBRは、今まさに先駆者にふさわしい利益を得ているとも考えられる。JBRのバイク部門の粗利率は5年ほど前は40%程度だった(同社資料より)。その後の会員増によるスケールメリットと、盗難率の段階的な低下により、粗利率は5ポイント以上も上昇した。JBRがこのことを盗難保険参入時に予想していたとは考えづらい。参入したJBRの勇気には敬意を払うべきだと思うし、それに対する見返りは得て当然だ、という人もいるだろう。とはいえ、一消費者としては、若干の不満が残るというのが正直なところだ。

*さいごにご注意* 以上の議論では、単純化して、いくつかの要素を無視している。そのひとつがパーツの盗難保険料。これも保険料に含まれるはずだが、たいした額にならないと考えて無視した。それから、盗まれたバイクが戻ってきた場合の「回収率」も計算に入れていない。警察の統計によれば、盗まれたバイクのうち35%程度は何らかの形で戻ってくる。保険の約款によれば、保険金が支払われた後で発見されたバイクの所有権はJBRにある。JBRは戻ってきたバイクを中古市場で売ることで、いくらかの金を回収できる。だから、JBRは支払った保険金のすべてを失うわけではなく、平均すると何%かは回収できるはずである。この分も本来なら「妥当な保険料」の計算に入れなければならないが、これもたいした金額にはならないと考えて、無視した。

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