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2010年6月 1日 (火)

書籍出版社の数理(6)――書籍出版社は保険会社と似ている、と考えてみよう

 今回は表題の通り、書籍出版社を保険会社と比較します。

 実際のところ、書籍出版社は保険会社とかなり似たようなことをしている部分があります。

 保険会社は、運の悪い人と運のいい人の間で、所得の再分配を行い、その過程でもうけを抜き取るシステムだということができます。火災保険であれば、火事に遭わなかった「運のいい人」から集めた掛け金を使って、運悪く火事にあった人の損害を埋め合わせます。医療保険であれば、病気にならなかった人の掛け金を使って、運悪く病気になってしまった人の医療費を埋め合わせる仕組みです。

 出版社も同じようなことをするシステムであると考えていいでしょう。

 前回に指摘したように、書籍のうち多くのものは、赤字になります。もし、完全な成果主義で考えるのならば、出版社はそんな本の著者に印税を払いたくない、というかもしれません。でも、ほとんどの出版社は、本が売れても売れなくても、初版部数の印税に相当する額を著者に支払っています。多くの場合、初版は売れ残るにも関わらず、です(売れ残った本は最終的に「資源ゴミ」になります)。多くの書籍出版社は、売れなくても、初版印税を保証するシステムを取っているのです。

 出版社は打ち出の小槌ではありません。売れ行きの悪かった本の印税や紙代、印刷代はどうやって支払っているのでしょうか。もちろん、払える分はそれぞれの本からの収入で払いますが、それで足りない赤字分は、売れ行き良好書から得た収入によって、支払っているのです。前回指摘したように、書籍出版社の売り上げは、上位の10%ほどのタイトルにより、半分以上が占められています。つまり、この上位のタイトルから得た収入を、売れ行きの悪い本の著者の印税(それと原価・経費にも)に回していることになります。

 本の売れ行きは、かなりばらつきが大きく、あらかじめ予測することもむずかしいことが多いです。端的に言えば、運・不運で売れ行きは大きく違います。「売れたら払うが、売れなかったら払わない」という完全な成果主義で印税支払いを行うと、著者にとってはあまりにリスクが高すぎて本を書くインセンティブが弱くなり、現在の出版界で恒常化している年間7万タイトルというペースで本を出すことは不可能になってしまいます。そのため、出版社が「最低賃金」を保証することで、ある程度の安定性を著者にもたらしていることになります。もし、完全な成果主義を導入すれば、ベストセラーの著者は今よりもたくさんの印税を得られるようになるでしょう。しかし、現在は、完全成果主義ならベストセラー著者に支払われたであろうお金で、赤の他人が書いた本の印税が支払われていると考えられます。結果的には、出版社は著者どうしの所得格差を縮めるシステムとしてはたらいているのです(そしてその過程でもうけをぬきとり、原価・経費もまかなっています)。

 このように保険会社と出版社は似ていると考えることができるのですが、さて今度は、両者の違いについて考えてみます。

 保険会社も書籍出版社も、保険加入者間や著者間の所得不平等を緩和する過程で、もうけと経費を抜き取っています。そして、病気や火事、本が売れるかどうかが不確実な出来事であることから、保険会社も出版社も、その「確率」をうまく扱う必要に迫られます。そうでないと、もうけどころか経費も支払うことができない状態になるかもしれません。不確実な出来事を元に、加入者や著者にお金の支払いを保証しているのですから、彼らのリスクが減少し、保険会社や出版社のリスクが増大することになります。

  保険会社は、加入者のリスクを引き受けることに、どのように対処しているのでしょうか。

 ……ここまで書いて、このあとが相当長くなりそうなことに気づいたので、この話、分割することにします。

 続きは次回です。

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