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2011年2月

2011年2月26日 (土)

書籍出版社の数理 番外編――いでよ! POSデータ!

 大変驚きました。こんな地味なテーマのブログが、はてブのホッテントリに入るなんて。
 円城塔氏がtumblrで紹介してくれたのがきっかけだったようで、おかげさまで、出版社の方にも見ていただけました(まあ、少なくとも、チラ見くらいはしてもらえましたでしょう)。ありがたいことです。

書籍出版社の数理(1)―売り上げの安定って大事ですよね: 順番学研究所 書籍出版社の数理(1)―売り上げの安定って大事ですよね: 順番学研究所

 熱の冷めないうちに、次の記事を書きたいのですが、まだ計算ができてないので、無理なんです。

 代わりに、お願いのための記事を書こうと思います。もうすこし、本の販売データを表に出していただけないかという、書店チェーンや取次の方々へのお願いです

●POSデータを研究用に、もっと公開してください!

 90年代後半から、コンピューターとネットのおかげで、あらゆるところに人間活動のログが残るようになりました。そのため、それを分析する学問が今、急激に進化しつつあります。たとえば、インターネットのトラフィックの分析、ツイッターのフォローの関係分析の話などは、聞いたことがある人も多いでしょう。それだけでなく、たとえば銀行間のお金のやりとりのログ解析とか、コンビニのPOSデータ分析といった、リアル社会のログ分析も積極的に行われています。

 もちろん、「本の売れ方」も、そういった研究の対象になります。でも、実のところ、本の売れ方の分析は、あまり進んでいないようです。大手企業が独占する形で情報をもっているので、その社内での分析は進んでいるのかもしれませんが、学術的な研究の対象にはしづらくて研究成果も表に出てきませんし、ましてや各出版社がそれを利用することもできません。大手取次の日販、トーハンには日々の出庫返品データや取引先書店のPOSデータ(タイトル、書店名、売れた時刻の記録)がたまっているはずですが、その全貌を見ることはできません。また、アマゾンにはもっとすごいデータが眠っているはずですが、秘密主義を徹底しているので、絶対に情報を公開しないでしょう。

 実は、日本の書籍市場は、本の売れ方について研究するのに、非常に理想的な「系」を提供しているのです。

 日本では書籍の定価販売が認められているので、値引きによる売れ行きの増減がありません。もし、値引きが行われると、本の発売当初は高い値段で売られ、時間がたつと値引きされるので、時間方向での売れ行きの比較に値引きの効果が載ってしまい、非常にやりづらくなりますが、日本ではそんな心配がありません。また、流通が大手取次の寡占になっているので、ほとんどの本の販売情報が、集約的に集まります。
 このような特性を利用して大量の販売データを解析すれば、本はどのように売れているのか、出版社にとってのリスクはどの程度なのかといったすぐ思いつくような疑問への答えのほか、疑問にさえ思わなかったような意外な発見が得られるはずです。

 世の中には、データさえあればどんどん研究をしてくれる研究者がたくさんいます。学術的な研究の対象にさえしてもらえれば、驚くような成果が出てくることは間違いありません。しかし、学術研究の対象になるためには、もとになるデータが公開されているか、お金を払えば買えるようになっているのが原則です。そうでなければ、ほかの研究者が結果を検証することができないので、科学的な議論の対象になりにくいからです。どうか、少なくとも学術目的のためには、本の販売データをもっと開示するよう、お願いしたいのです。

 そんな中、以前にも紹介したジュンク堂の販売シェアの情報(「書籍出版社の数理(8)―出版社同士の競争は激しいのか?」を参照)は、非常に貴重です。 また、会員出版社に公開されている紀伊國屋のPOSデータ、「パブライン」も貴重な情報源です(ただし、契約によりパブラインから得た情報を公開することは禁じられています。これがなければ、このブログでもお見せできるおもしろいネタがあるんですけど…)。情報は各社が整理したシステムの中にちゃんと存在してますし、あとはもう少し、情報の公開が進めば、学術研究の対象となり得るものが、日本にはたくさんあります。

 海外の研究者は、本の販売について研究するのに四苦八苦しています。たとえば、アマゾンの本の順位データを、毎時記録するシステムを作り、その変遷からどんなふうに売れかたが変化したかを研究するという、ちょっと聞くと涙ぐましいような努力をしている研究者もいます。そういうふうにしか情報が手に入らないのだから仕方がないのですが、このやり方だとアマゾン順位と売れ数の間に勝手な仮定を おいて論を進めるしかなく、それが間違っていると、致命的な欠陥となり得ます。

 私が、このブログで公開しているシミュレーションも、本の売り上げ分布の形をどのように仮定するかで、結果は変わってしまいます。より正確な売り上げ分布を知るためには、詳細なPOSデータは欠かせません。

 日本の書籍販売のデータが、世界の「書籍販売の研究」を一変させる可能性は大きいのです。私は研究者ではありませんが、本がどんなふうに売れるのかにはもちろん興味があり、少しでも多くを知りたいと思います。出版業界・書籍販売業界の多くの方も、そう思っていると思います。そのためには、情報の開示が必要です。大手書店・取次においでの方は、ほんの少しでいいので、そういったことについてお考えいただけないでしょうか。

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